人見知りは「遺伝(生まれつき)」によって起こるものなのでしょうか?
それとも、生きていくうえで少しずつ形成されていくものなのでしょうか。
“人見知り”は、心理学では「シャイネス」と表現され、現在までにその形成過程や改善・治療方法の手がかりが提供されてきています。
ここでは、心理学研究の知見をもとに、「人見知りと遺伝」について解説していきます。
この記事の目次
誰でも人見知りの遺伝子は持っている
本来の「人見知り」とは、乳幼児の頃に必ず起きる成長の過程の一つです。
大人になってからは「自分は人見知りだから」と性格の一つのように言いますが、実は「成長期」や「反抗期」のように、ほぼすべての人が人見知りを経験しているのです。
人間は乳幼児の頃に「自我」が芽生え始め、徐々に”危険を察知する能力”をつけはじめます。これは人間だけでなく、多くの動物も同じで、いわゆる「防御本能」というものです。
動物が自然界で生きていく上において必ず存在する「天敵」は、成長してから後天的に学ぶものもありますが、生まれつき遺伝情報に組み込まれているものもあります。
たとえば、猫は自然界で蛇に襲われることが多いので、細長い蛇のような形状をしたものを「天敵」と察知するように遺伝子に組み込まれているといった具合です。
人間の赤ちゃんも、だんだん「自分」というものを意識できるようになると同時に、遺伝的に「他人」や「敵」を認識する能力が芽生えてきます。
この時期に見ず知らずの人が現れると、その人が「敵か味方か?」を推測する時間を持つようになりますが、これが”人見知り”の正体なのです。
ただし、これは動物としての「人見知り」であり、大人になって社会に出てからの”人見知り”とは少し意味が異なります。
とはいえ、人間には元々そういった遺伝的な人見知りが備わっていることは知っておいたほうが良いでしょう。
育つ環境がもっとも大きな影響を与える
乳幼児の頃の人見知りは、現代の先進国の安全な環境下では徐々にその必要性がなくなっていきます。
しかし、大人になってもまだ人見知りをするようであれば、それは育ってきた環境や経験などが影響する「後天的原因による人見知り」が起きていると考えられます。
具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
親の育て方
幼児期の家庭環境が子供の後々の人間性に大きな影響を与えることは、多くの方が知るところです。
多くの精神疾患の原因もまた、幼児期の家庭環境に大きく影響されていることは、精神医学でも常識になっています。
しかし、軽度の「人見知り」の場合は、「問題のある家庭」でなくても十分に起きる可能性があります。
「離婚」「DV」「両親がアルコール・ドラッグ依存患者」「極度の経済苦」など、大きな問題が家庭になくても、親の育て方が子供の成長に影を落とすこともあるのです。
たとえば、
- 厳格すぎる両親
- 親の性格が気分屋・不安定
- 親が激昂しやすい・性格の波が激しい
- 子供に泣き言を言う
- 親の願望を子供に託しすぎる
- 親の趣味を押し付ける
- 両親のどちらかが支配的性格
- 自分の子供と他人の子供を比較する
- 学歴・経歴・家柄・ブランドを強く意識する言動
- 親の好き嫌いで褒めたりたしなめたりする
これらの育て方は法律にふれるわけでもありませんから、親の自由でもあります。
しかし、これらに共通するものは「親の好みを優先して子供の自主性を奪っている」ということです。
こういった育て方をしてしまうと、子供は「親の顔色ばかりうかがう性質」を持ってしまい、成人しても”他人の評価”を強く意識するようになるのです。
「他人の意見は正しく、自分には間違っているところがある」と考えるようになると、自信を持つことができず、健全な人間関係を築くことが難しくなります。
しだいに他人とのコミュニケーションに疲弊するようになり、それが”後天的な人見知り”の核となることがあるのです。
学校の友達、仕事の上司や先輩
乳幼児の時期が終わり、学校に行くようになると、そこで本格的な「他人との社会」の中に放り込まれることになります。
そこからさらに時間が経って就職をすると、正真正銘の「社会」の輪に参加します。
学校に入学をしたり、新入社員として会社に入った時期は、目に映るものすべてが新鮮で衝撃的ですから、そこで起きることは強く深く心と脳にインプットされることになります。
こういった時期に経験する”嫌な出来事”は、「トラウマ化」しやすいのです。
- 容姿のことをからかわれた
- 威圧された・恫喝された
- 実力の差を見せつけられた
- 差別された・えこひいきされた
これらの経験は、その後の人格形成に大きな影響を与えることがあります。
場合によっては、トラウマとなって不安や恐怖を引き起こす「条件反射的な要素」となってしまうでしょう。
この「トラウマの対象」は、自分に衝撃を与えた当事者や、それに似た条件の人種はもちろん、時間が経って悪化していくと「人間そのもの」が対象になることも少なくありません。
この対象が広がった恐怖心も、”後天的人見知り”の原因の一つだといえるでしょう。
遺伝や生まれつきと諦めているうちは人見知りは克服できない
人には遺伝的に人見知りをする要素があるものの、成人してからの人見知りは、”ほぼ後天的要因”です。
人見知りを治すためには、どこかで自分をコントロールしたり、あえて厳しい環境をつくる必要があるといえるでしょう。
自分の人見知りを遺伝や生まれつき、また性格的な問題であると改善を諦めているうちは、残念ながら克服することはできません。
また、「原因さえわかれば」と過去を掘り返そうとする人もいますが、その原因が特定できたとしても、それだけで解決するわけでもありません。
反対に、つらい過去があることが特定できたことで、被害者意識が生まれ、自分を甘やかしてしまうことも少なくありませんので注意が必要です。
これからの行動を変えることだけが人見知り克服へのカギとなる
「人見知り」だけではなく、良くも悪くも人の性格というのは、何らかの「経験」によって作られるものだと考えられています。
そして、前項でも触れましたが、その性格を克服する方法は「過去の掘り起こし」ではないのです。
人見知りを克服してストレスの少ない生活を送るためには、”これからの行動を変えること”がカギとなります。
例えば「人混みが苦手」「大勢の人がいる場で緊張しやすい」といった症状を治療する場合は、「暴露法(エクスポージャー法)」という方法が用いられます。
これは、苦手な場面に(無理のない範囲で)段階的にあえてさらすことで、”不安や恐怖を減らしていく”方法です。
「人付き合いが苦手」「コミュニケーションでストレスを感じる」という人見知りの症状でも、同じように徐々に対人場面に慣らしていくことも大切だといえるでしょう。
先進国で暮らす私たちは、個人が社会に依存する形で生きていきますので、コミュニケーション能力の低下は日常生活に支障をきたす原因にもなりかねません。
自分が「人見知り」だと自覚ができたならば、少しでも早く克服できるように行動をはじめましょう。
参考文献:児童期後期における社交不安 (シャイネス) の発達的変化
対人関係において不安や緊張を覚えやすく、実生活で精神的苦痛や疲弊を感じやすい性質や傾向を『シャイネス』といいます。
シャイネスの中には、『内気』や『恥ずかしがり』、『人見知り』といったものも含まれ、それが原因で人付き合いを避けてしまう方は多いとされています。
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